ひどく無愛想な奴だということだ

「君はどこへ行《い》くのだい」「路花《ろか》に逢おうと思って行った処が、十時でなけりゃあ起きないということだから、この辺《へん》をさっきからぶらぶらしている」「大石路花か。なんでもひどく無愛想な奴だということだ。やっぱり君は小説家志願でいるのだね」「どうなるか知れはしないよ」「君は財産家だから、なんでも好きな事を遣《や》るが好《い》いさ。紹介でもあるのかい」「うむ。君が東京へ出てから中学へ来た田中という先生があるのだ。校友会で心易くなって、僕の処へ遊びに来たのだ。その先生が大石の同窓だもんだから、紹介状を書いて貰った」「そんなら好かろう。随分話のしにくい男だというから、ふいと行ったって駄目だろうと思ったのだ。もうそろそろ十時になるだろう。そこいらまで一しょに行《い》こう」 二人は又狭い横町を抜けて、幅の広い寂しい通を横切って、純一の一度渡った、小川に掛けた生木《なまき》の橋を渡って、千駄木下《せんだぎした》の大通に出た。菊見に行くらしい車が、大分続いて藍染橋《あいそめばし》の方から来る。瀬戸が先へ立って、ペンキ塗の杙《くい》にゐで井病院と仮名違《かなちがい》に書いて立ててある、西側の横町へ這入るので、純一は附いて行《ゆ》く。瀬戸が思い出したように問うた。「どこにいるのだい」「まだ日蔭町の宿屋にいる」「それじゃあ居所が極《き》まったら知らせてくれ給えよ」 瀬戸は名刺を出して、動坂《どうざか》の下宿の番地を鉛筆で書いて渡した。「僕はここにいる。君は路花の処へ入門するのかね。盛んな事を遣って盛んな事を書いているというじゃないか」「君は読まないか」

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